最高級カシミヤを使用したアイテムを主軸とするイタリアのラグジュアリーブランド「ブルネロ クチネリ(Brunello Cucinelli)」。上質な素材と高い職人技術によって生み出されるこだわりのアイテムだけでなく、イタリアの小さな村と共に生きる独自の人間主義的経営で「世界で一番美しい会社」と称されるほど、経営面でも注目されるブランドだ。今回は、そんなブルネロ クチネリにフォーカスし、歴史や手掛ける服の特徴、おすすめアイテムを解説していく。
CONTENTS
スポンサーリンク
「ブルネロ クチネリ」とは?
ブルネロ クチネリは、色鮮やかなカラーカシミヤセーターのメーカーとして1978年に誕生したブランドだ。「スポーツ・シック ラグジュアリー」をコンセプトに、カシミヤをはじめとしたラグジュアリーな素材を使い、メイド・イン・イタリーのクラフツマンシップが光る上質なコレクションを展開。現在は紳士服、婦人服、子供服からライフスタイルにまつわる雑貨、アイウェア、フレグランス、アクセサリーまでを総合的に展開する最高級アパレルブランドとして知られている。
ブルネロ クチネリ社は1978年に創業後、ビジネスの拡大に伴い、1982年にブルネロ・クチネリ氏の現在の妻の故郷、イタリア ウンブリア州にある小村ソロメオに本拠地を移転。ソロメオ村は以後、ブランドの精神と哲学を象徴する場所となっていく。1985年には、ソロメオ村にある14世紀の古城を買い取り修復して本社兼工場に。その他にも、地域に代々受け継がれてきた職人の技巧を後世に伝えるべく、職人学校を設立。学びに集中できるよう奨学金で学費免除、さらに給与も支給される体制を構築した。また、アマゾン社のジェフ・ベゾスをはじめ、シリコンバレーの名だたるIT企業の創業者やCEOがソロメオ村を訪れて、シンポジウム(「魂と経済のシンポジウム」)を開催するなど、数々の逸話を残しているブルネロ クチネリ。ここからは、そんなブランドへの理解を深めるために押さえたい3つのポイントを紹介していく。
ブルネロ クチネリの真価①これぞブルネロ クチネリ!他に類を見ない「スタイル提案力」
カシミヤセーターのメーカーとして誕生したブランドなだけあり、ブルネロ クチネリはカシミヤ製品に強いブランドというイメージをお持ちの方は多いだろう。当時、ウンブリア、ペルージャ近郊ではニット産業が盛んなため、ニットの職人技術が根付いており、カシミヤは簡単には捨てられてない(=長く愛用される)素材ということで、現在でもブランドのメイン素材として扱われている。しかし、ブルネロ クチネリを一言で高級カシミヤブランドとまとめてしまうのは勿体無い。このブランドの最大の魅力は、高級素材とイタリアの職人技の掛け合わせで表現される「スタイル提案」にあると筆者は考える。
例えば、ブルネロ クチネリといえば、品のあるベージュやグレーなどのニュートラルカラーをベースにしたアイテムが象徴的。下のスナップのようなベージュのテーラードジャケットにグレーのネクタイを合わせ、白パンツで爽やかにまとめる、といったカラーパレットのコーディネートは、ブルネロ クチネリならではの着こなしスタイルのひとつだ。
シーズンによってシルエットや組み合わせるアイテム、素材に若干の変化はあれど、この何ともいえない優しいトーンで瀟洒な雰囲気ただようスタイルは、ブルネロ クチネリが確立したと言っても過言ではない。
上記で触れたベージュ、グレーといったニュートラルカラーのアイテムを軸に、シーズンによって着こなしの幅を広げるカラーアイテムを展開している点も見逃せない。2024-25AWコレクションでは、ロブスターの色をイメージした“ロブスターオレンジ”や、珊瑚礁をイメージした“コーラルレッド”、アイリスの花を彷彿とさせる“アイリスパープル”などが提案されている。全ての色がわずかにグレイッシュに調整されているため、ベージュやグレーとの相性はもちろん抜群だ。
ドレススタイルのカジュアル化が進む昨今、ブルネロ クチネリは色の組み合わせだけでなく、クラシックなメンズファッションのルールから脱した自由な着こなしを新たに提案していることも注目されている。スーツ&ライダースジャケットや、シャツとタートルネックのレイヤード、レザージャケットのインナー使い、カーディガンのタックインなど。自身のファッション偏差値を底上げするためにも、今後のブルネロ クチネリの動向から目が離せない。
ブルネロ クチネリの真価②ブランド御抱の職人技が光る「メイド・イン・イタリー」
ブルネロ クチネリはブランド創業時から「高度な手仕事と職人技に支えられたイタリアらしい服であり、高価ではあるが価格以上の価値を持つ製品作り」に定評がある。現在では、ソロメオ村の平野部に1970年代からある古い工場を買い取り改修した自社ファクトリーにて、デザイン、パターンメイキング、素材の選定、縫製、編物、最終製品の仕上げなどが行われ、近郊含め約400もの外部工房の職人とともに、日々イタリアの職人技が光る上質なウェアを生産している。
またブルネロ クチネリは、現代的で革新的な機械やツールを取り入れ、ブランドとしてこだわる手仕事と創造性にうまく組み合わせることに努めている点も特徴のひとつだ。注目したいのは、単純に作業効率を高めて利益を得る目的ではなく、最先端の技術はあくまでも道具・手段のひとつとして捉え、手仕事と創造性を追求するモノづくりのために活用しているところ。
ブルネロ クチネリは「従業員は単なる工員ではなくアーティストである」と考えており、そんな尊敬の意を込め、アートの意味を含む「アルティジャーニ(職人)」と彼らを呼ぶ。働く人々が心地よく働き、最大限のパフォーマンスを発揮することで、より良いプロダクトができるという考えのもと、平均よりも高い賃金を払い、明るく広々した大きな窓からソロメオの自然が眺められる開放的な製造空間を提供しているのも、このブランドならではの魅力のひとつだ。
ブルネロ クチネリの真価③モノだけではなくヒトの付加価値を。「人間主義的経営」
ブルネロ クチネリは、ファッションだけでなく、その経営哲学も多方面から注目されている。創業者のブルネロ クチネリ氏は、農業をやめ、都市部の工場で不遇な環境下で働く父親の姿を目にした経験と、それに対する強い思いが原点となり、「働く者の尊厳」を何よりも尊重。「自然との調和」や「利益と社会貢献のバランス」を大切にすることで人間の尊厳を保つ仕事を生み出したいと考えて生まれた「人間主義的資本主義」を経営理念とし、「世界で一番美しい会社」と称されている。
ブルネロ・クチネリと父ウンベルト、2018年6月
ブルネロ クチネリ氏は、1953年にペルージャの農村カステル・リゴーネで生まれた。当時、クチネリ家は13人家族。畑や果樹園、そして森に囲まれた素朴な農家に住み、電気を使用せず、家畜の力を活用して土を耕すなど、自然に密着した生活を送っていたという。image by Brunello Cucinelli
1982年には妻フェデリカとの結婚を機に、彼女の故郷であるソロメオ村へ移住した彼らは、14世紀に建築された古城を買い取って修復し、ブランドの本社に。それに伴い地域の住民を雇用、村の教会を修復し、あらたに劇場を建設したり、2013年には地元の高度な職人技を次世代へ受け継いでいくために「ソロメオ職人学校」を開校。ブランドの拡大と同時に、衰退・荒廃していた村の経済的かつ美観的な復興を促進している。
ブルネロ・クチネリ、メンズテーラー科にて
ECサイトにおいても、“人間主義”を貫いている点は見逃せない。無機質なコミュニケーションで顧客が不快に思うことがないように、商品には手書きのメッセージが添えられている。さらに読み物として楽しめるコンテンツ、AIを導入したウェブサイトなども展開。さらに特別なギフトラッピングなど、温かみのあるサービスも提供されている。
1人勝ちは無し。黒字を維持し、イタリア平均以上の給与と開放的な職場環境を実現する「世界で一番美しい会社」
ブルネロ クチネリは、業界のなかでもイタリアの平均水準以上の給与と美しい職場環境を提供し、さらに村の景観の維持、伝統的技術の保護まで行いながら、創業から45年以上経った現在でもなお黒字経営で事業の拡大を続けているというから驚きだ。ひたすらに利益追求に走る企業、不祥事やハラスメントのニュース、一部の投資家や経営者への富の集中などが問題視される現代において、ブルネロ クチネリが「世界で一番美しい会社」と称されるのも納得がいく。
ブルネロ クチネリは、イタリア国内外を問わず美しい文化を継承するための支援は惜しまない。新型コロナウイルスのパンデミック時は、生産レベルでの価値3500万ドル相当の、販売するに及ばなかったウェアを、イタリア国内外の小さな慈善団体のネットワークを介して配布する「Brunello Cucinelli for Humanity」というプロジェクトを発表。2022年3月からは、当時皇太子であったチャールズ現英国国王が発案した「ヒマラヤ再生ファッションリビングラボ(Himalayan Regenerative Fashion Living Lab)」への参加と資金的な援助も行っている。
ここからは、ブルネロ クチネリのアイテムにフォーカス。ブランドの看板であるニットウェアに加え、ジャケットや普段使いしやすいシャツやTシャツまで、魅力を紹介していく。
ブルネロ クチネリおすすめアイテム①「ニット」
ブルネロ クチネリの原点とも言えるニットウェア。カシミヤをはじめ、こだわりの素材や構造を採用したニットウェアが展開されている。
ブルネロ クチネリに欠かせない「カシミヤセーター」
ブルネロ クチネリで毎シーズン登場するカシミヤセーター。天然繊維の中でもトップクラスで細い繊細な糸を使用することで生まれる柔和な質感と、繊維の表面が整ったなめらかな肌触りは、一度体感すれば虜になることうけあいだ。襟ぐりと袖口には、コントラストカラーの細い縁取りをセット。一枚のシンプルな着こなしにほど良いアクセントをプラスしてくれる。
カシミヤの柔らかさを追求した「カシミヤ ライズヤーン セーター」
こちらは定番のカシミヤセーターに新工程を採用したモデル。極細の糸を2本撚り合わせて質感を均一かつコンパクトにし、軽やかな手触りと包み込むようなやわらかい着心地を表現している。デイリー使いしやすいクルーネックタイプで、袖口にコントラストカラーを採用。
まるで着ていることを忘れるほど軽くしなやかな着心地「カシミヤ&シルク ライトウェイトセーター」
カシミヤにシルクをブレンドし、カシミヤの高級感とシルクならではの絶妙な光沢感、ドレープ性を融合した一枚。カシミヤとシルクを一本取りで編み上げることで、まるで着ていることを忘れてしまうほど軽やかかつ、肌に馴染む着心地を実現している。
ブルネロ クチネリおすすめアイテム②「ジャケット」
高級素材にブルネロ クチネリの巧みなテーラーリング技術を反映させた「ジャケット」も見逃せないアイテムのひとつ。世代を超えて受け継ぐジャケットは、こんなシンプルで細かい部分にまでこだわりを反映した上質なものを選びたい。
「ギャバジン フォーマルジャケット」
コットンをメインにカシミヤをブレンドし、きつく織り上げたギャバジン素材を用いたフォーマルジャケット。生地は上品な光沢感を持ち、シワになりにくいツイル構造となっている。イタリアの伝統的な手仕事をふんだんに取り入れた立体感がありながら、柔らかい仕立てが堪らない。シングルブレストのピークドラペルに加えて、身頃に沿わせ、やや肩部分を強調したパターンで、精悍な印象を引き立てる仕上がりに。同素材、同色のパンツも展開されており、セットアップで着こなせる。
夏のジャケットにうってつけ「ピンストライプ アンコンジャケット」
夏のスタイルに映えるネイビーのピンストライプをあしらったダブルジャケット。職人の手で特殊なユーズド感が与えられており、それぞれに一点ものならではの風合いが感じられる。フロントボタンはメタリックにすることで、華やかな印象に。素材は、リネン・ウール・シルクをブレンドしており、季節の変わり目や夏のフォーマルなシーンでも羽織りやすい仕上がりとなっている。肩パッドを使用せずとも男性の体格を魅力的に引き立ててくれるブルネロ クチネリ独自のパターン「ソロメオショルダー」も堪らない。
ブルネロ クチネリおすすめアイテム③「シャツ・Tシャツ」
カシミヤを使ったニットや、フォーマルなシーンで活躍するジャケットの他に、デイリー使いしやすいシャツやTシャツもブルネロ クチネリの隠れた名品だ。
ジャケット合わせから一枚の着こなしもサマになる「スリムフィット シャツ」
ピックアップしたのは、ピュアコットンを採用したスリムフィット シャツ。存在感が控えめなスプレッドカラーは、ノータイ、タイドアップどちらでもサマになる、計算された設計となっている。袖口はマザーオブパール製のボタンを2つセット。バックスタイルには立体感のあるシルエットを実現するヨークの切り替えとダーツを取り入れながら、中心にインバーテッドプリーツを施すことで可動域を確保してストレスフリーな着心地に。
無地Tシャツにも個性が宿る「コットンジャージー クルーネックTシャツ」
やわらかなジャージー素材に改良を加え、より軽やかかつなめらかな手触りに仕上げたクルーネックTシャツ。イタリア最高峰のテーラリング技術を反映した、身体のラインに沿うような立体感のあるシルエットに注目だ。また、一見すると無地のシンプルなTシャツだが、よく見ると袖下の切り替え線の位置を後ろにずらすデザインや、裾に可動域を広げるサイドスリットを取り入れていたりと、一般的なTシャツよりも凝った仕様となっているところも、ブルネロ クチネリのらしさを感じる。
2/2GO TO NEXT PAGE