英国海軍の軍服、そしてフランス・ブルターニュ地方の漁師の仕事着としての起源を持つピーコート。時代を超越した定番アウターであることに加えて、昨今ショート丈のアウターが注目されていることもあるので、ぜひこの秋冬のワードローブとして視野にいれてほしい。今回は40代メンズに向けて、ルーツのおさらいから、筆者が推奨する着こなし術やブランドまで紹介していく。
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Pコート(ピーコート)の起源とは?
19世紀末から英国海軍や漁師たちが船上の防寒服として着用していたのがPコートだ。中でもフランスのブルターニュ地方の漁師がよく着用していたと言われている。Pはオランダ語の「pij jekker(ピージェッケル)」=「ラシャ(ウールの一種)のジャケット」から由来したもの。派生して「Pea Jaket」という言葉が生まれ、現在のPコートという呼び名にいたる。ちなみに、ドイツ語では「Caba」と呼ばれているそう。
ピーコートの基本型の特徴とは?
ピーコートは名作アウターであり、オリジナルのデザインやディテールを色濃く残したクラシックなもの以外にも、そのエッセンスを取り入れつつもデザイナーによるアレンジを加えたアイテムも多数存在している。いずれのアイテムを選ぶにせよ、40代の男性ならぜひピーコートの原型、基本型を把握した上で、ピーコートを選んでほしい。クラシックなPコートを定義付けるポイントは「素材」「前立て」「襟」「ポケット」「ボタン」の5つだ。船橋や甲板など、厳しい気候条件のもとで海軍の水兵や漁師が耐え忍ぶための工夫がそれぞれのディテールに込められている。ちなみにショート丈のイメージが強くタマ数も多いが、下の画像のようにフラップポケットを備えたロング丈のモデルも存在し、こちらもれっきとしたPコートだ。
ピーコートの基本型①「重厚感のあるウールメルトン生地」
冷風の侵入を防ぎ保温性能を保持するために、一度織り上げたウール素材を縮絨し、フェルト加工を施した素材が採用されているのは、クラシックなピーコートの証のひとつ。ウールをベースにナイロンが混紡されているものが多い。
ピーコートの基本型②「左右どちらが上前でもボタンを留められるダブルの前立て」
あらゆる方向から吹き付ける強風に対応するために、左右のどちらが上にきても閉じられるダブルブレスト仕様が採用されているものが、クラシックなピーコートの特徴だ。
ピーコートの基本型③「集音効果を考慮して設計された衿」
Pコートの始まりはヨーロッパ海軍のセーラーにあり、セーラーのディテールの名残が存在する。セーラーカラーには、甲板上で風や波音、船の騒音の影響によって音声が聞き取りにくい際に、襟を立て集音効果を得るための設計が施されている。Pコートにも、おなじく集音効果を高めるために大きな衿の設計が施されているのだ。アルスターカラーやリーファーカラーと言われる衿に形状は近いが、正式名称は定かではない。大きく襟を立てて着用できるPコートは、クラシックな仕様を採用している言えるだろう。
ピーコートの基本型④「機能性の高いマフポケット」
ハンド・ウォーマー・ポケットとも呼ばれ、手を温めることを主眼においたポケットのこと。円筒形の毛皮でできた手を温める防寒具がマフと呼ばれ、形が似ていることからマフポケットと言われている。手の出し入れを快適に行えるように、縦に切り口が入ったデザインがクラシックな仕様だ。
ピーコートの基本型⑤「アンカーボタン」
海軍の象徴とも言える錨(いかり)の印をあしらったボタンは、Pコートの特徴の1つだ。ボタンに配されたファウルアンカーと言われるこの印は、400年前から続くもの。元々は1588年のアルマダの海戦にて、スペインの無敵艦隊をイングランドが打ち破った時の海軍司令長官ハード・エフィンガム卿の印として知られていた。初期は木製の素材を使用していたが、現在はプラスティックや金属ボタンなど様々なものが使用されている。ブランドが出すPコートには、碇のマークを参考にしたオリジナルデザインを展開しているものも存在する。
続いては筆者がおすすめするピーコートの着こなしを紹介する。
ピーコート 40代メンズに推奨したい着こなし①「白パンツを合わせたマリンコーデ」
まず、海軍水兵にゆかりのあるピーコートなので、塩の薫り漂うマリンスタイルを意識したコーディネートと合わないわけがない。ちなみにマリンスタイルのについてはこちらの記事で詳述しているので良ければご一読いただきたい。象徴的なのはやはり「ネイビー×ホワイト」の色合わせ。定番色ネイビーのピーコートと白パンツのペアリングは相性抜群だし、若々しくアクティブな印象もまとえるのがメリット。この手の着こなしでミーハーな感覚のブランドのピーコートを選ぶと、イイ歳してチャラついている軽薄な印象に直結しがちなので、40代の男性にはピーコート本来のデザインやディテール、素材を忠実に再現した、本格派のメーカーが展開しているものを選ぶのがおすすめだ。
ピーコート 40代メンズに推奨したい着こなし②「ちょっとリッチでギラついた雰囲気を出すなら金メタルボタンをチョイス」
年齢的に徐々に枯れ始める40代の男性なら全体としてはシンプルなコーディネートであっても、どこかリッチな感じや、ほどよくギラついた感じ、あるいはちょっとした格上げ感があった方が格好良く決まりやすい。そんな時におすすめなのが金ボタンタイプのPコートだ。
ピーコート 40代メンズに推奨したい着こなし③「ブルーやネイビーといった同系色でまとめて活力あふれるシュッとした印象を演出」
ネイビーのピーコートに合わせるように、ブルーやネイビー系のトップスやボトムスを合わせた着こなしを提案したい。ネイビーやブルーは、メンズファッションの定番色のなかでも、男性を若々しく活力あふれる印象に見せる色味。これを全身に取り入れることで統一感による垢抜け感を醸し出せるだけでなく、年齢を重ねることによる“くたびれた感じ”を軽減し、印象アップが狙えるはずだ。
ピーコート 40代メンズに推奨したい着こなし③「グリーン系のワークパンツを合わせて、洒落者御用達の“ネイビー×グリーン”を取り入れる」
ピッティ・ウォモに参加するファッション業界人がよく取り入れているのが「ネイビー×グリーン」の色合わせだ。原色に近い鮮やかなグリーンを合わせるのも良いが、オリーブグリーンやモスグリーンなど、すこしくすんだ色味が40代のメンズが取り入れるのにちょうど良い。ピーコートの中に着るトップスにネイビーのニットやカットソーを持ってくると、この色合わせがいっそう際立つ。
ピーコート 40代メンズに推奨したい着こなし④「白の分量多めで、清潔感あふれる爽やかオジ路線」
ネイビーのピーコートに、白Tシャツ、白コットンパンツを組み合わせて、白の分量たっぷりのスタイリングを推奨したい。秋冬の男性の装いは、暗い色味がメインになりがち。大胆に白を取り入れることで、爽やかでクリーンな印象が際立ち、街中でも良い意味で目立つ存在になれることうけあいだ。また、この着こなしのポイントは、ネイビーのカーディガンの取り入れにある。これを入れることで、白Tと白パンツという、ちょっとやりすぎ感を抱いてしまいそうなコンビがうまい具合に連結され、格好良いスタイルが成立している。
ピーコート 40代メンズに推奨したい着こなし⑤「ネイビーのニット帽を取り入れて、髪色がコーデの邪魔になるのを防ぐ」
前述のように、自分の髪色に注意を払うことで、洗練された装いへの道が拓ける可能性がある。そのような観点でも、髪を完全に覆い隠せるニットキャップは取り入れを検討する価値があると思う。下の男性の場合は、髭を見る限りではダークブラウンヘアと白髪混じりのヘアスタイルだと想像されるので、靴に合わせてブラックのニットキャップをチョイスするのも良いと思う。
ピーコート 40代メンズに推奨したい着こなし⑥「ビジネスシーンでは基本的に△ オン使いを視野に入れるなら丈が長めのドレスウェアブランドものを選ぶのが安心」
ピーコートの多くは丈が短めで、カジュアルな印象が強いのでビジネススタイルに合わせるのは基本的にセオリー外だが、もし合わせるなら、丈が長めのデザインを選ぶのが良い。休日の格好もドレス、クラシック寄りのスタイルが多かったり、通勤使いする想定がほとんどであれば、ドレスウェアブランドがピーコートのデザインを一部だけ取り入れているようなアイテムを選ぶとさらに◎ ピーコートにこだわらず、とにかくビジネススタイルに使えるダブルのコートを探しているなら、いわゆるポロコート、アルスターコート等を選ぶのも良いだろう。
筆者が40代メンズにおすすめするピーコート5選!
①オーセンティック志向の40代男性におすすめは「FIDELITYのピーコート」
クラシックなデザインとディテールを備えた本格派のPコートを求めるなら「FIDELITY(フィデリティ)」を必ず比較候補に入れるべし。アメリカ・マサチューセッツ州ボストンで1941年に創業した老舗アウターウェアメーカーで、アメリカ海軍にウールメルトン生地のピーコートを納入していたことで知られるブランドだ。2021年よりサンマリノ社が企画・製造をしており、3万円台以下のものは中国製、6万円台・7万円台の別注モノは米国製造のようだ。
②40代メンズには「GLOVERALLの“Churchill Peacoat”」
40代の男性なら若かりし頃、一度はGLOVERALL(グローバーオール)のダッフルコートに憧れたことがあるのでは?英国で1951年に創業し英国国防省の委託を受け、第二次世界大戦の終結により不要となった英国海軍のダッフルコートと手袋を販売していたが、後に自前でダッフルコートの生産を開始して今の地位にのぼりつめたという同ブランドのストーリーはおさえておきたい。GLOVERALLのダッフルコートが有名すぎてあまり知られていないが、実はピーコートも展開している。その名は「Churchill Peacoat(チャーチル ピーコート)」だ。素材がイングリッシュメルトンウールを100%採用なのも良い。
③オンオフ両用できるデザイン、プレミアム感を求める40代紳士には「Mackintoshの“Dalton”」
ほとんどのピーコートがビジネス使いには向かないが、それでもオンオフ両用使いできるピーコートが欲しいという男性のニーズに完全にフィットするのが、1823年に英国で誕生した老舗ブランドMackintoshが展開する“Dalton(ダルトン)”だ。世に出回るピーコートのほとんどが化学繊維混紡だが、こちらはウール90% カシミア10%とプレミアムな天然繊維を採用しているので、クラス感が欲しくなる年頃の40代男性にぴったり。クラシックなアルスターカラー、少し長めの丈感がスーツに合わせてもしっくりくる。
④分かる人にだけ伝わる“デザインのヒネり”に胸キュンな40代メンズにおすすめなのは「MM6 Maison Margielaのピーコート」
「MM6」は、メゾンマルジェラの「ライン6(女性服)」が独立して1997年に誕生したブランドだ。元々は女性向けのみの展開だったが、2022年から待望のメンズアイテムも展開し人気を博している注目株。こちらのコートは一見するとベーシックなピーコートだが、ノッチドラペルをしれっと採用しており、ヒネりがきいた仕上がり。冒頭でおさらいしたピーコートの基礎知識を持たない人には普通のピーコートにしか見えないが、分かる人には「なんだこれは!?」という違和感を抱かせる品。
MM6 Maison Margielaのピーコートをチェックしてみる
⑤金ボタンがサマになる40代のイケオジにおすすめなのは「Golden Gooseのピーコート」
店舗やオンラインサイトで、金ボタンタイプのピーコートを探したが、格好良いと思えるものがほとんど見つからなかった。そんな中で発見したのが、Golden Gooseのこちらのコート。Golden Gooseと言えば、スニーカーが有名だが、実はかなり積極的にアパレルも展開している。イタリアブランドならではの洒落た感性を感じられる一着は、高感度なイケオジにぴったりだ。