
細身のシャープなフォルムとシンプルなデザイン、独特なスエードの切り替えが特徴のジャーマントレーナーは、どんな着こなしにも馴染みやすい軍用トレーニングシューズのマスターピース。現代でもメゾンマルジェラのシグニチャー・ピースであるREPLICAやディオールオムのB01、エンダースキーマのマニュアルインダストリアルプロダクツ 05などが広く認知されている。今回は「ジャーマントレーナー」にフォーカスし、デザインの特徴や興味深いその歴史、参考にしたいスナップとおすすめアイテムを紹介!
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ジャーマントレーナーとは?
1936年に開催されたベルリンオリンピックの際、「Dassler Brothers Shoe Factory:ダスラー兄弟靴工場」のアドルフ・ダスラー(アディダスの創業者)によって開発された、アメリカの陸上競技選手であるジェシー・オーエンスのためのランニングスパイクシューズをベースに、1970年代に西ドイツ軍の連邦防衛スポーツシューズとして大量生産されたジャーマントレーナー。オリジナルに採用されていたスパイクはトラクション用のラバーガムソールに変更され、しなやかなオールレザーボディはそのままに、グレーやオフホワイトのスエードディテールをつま先のボックスに重ねたデザインが特徴だ。さらにアウトソールは円とグリッドのユニークなパターンとなっており、他のトレーニングシューズやスニーカーに見られるものとは大きく異なる。ちなみに日本ではジャーマントレーナーの名称が一般的だが、海外では通常GERMAN ARMY TRAINER、もしくはその頭文字をとってGTAの名で親しまれている。
ジャーマントレーナーの歴史について
オリジナルのジャーマン アーミー トレーナーは1970年代当時BW Sportと呼ばれており、BWはドイツ語の“bundes wehr”の略で、BW Sportは「bundes wehr sports chuhe(Federal Defense Sports Shoe:連邦防衛スポーツシューズ)」を意味している。このスニーカーの原型とされているのは、アドルフ・ダスラーがジェシー・オーエンスのために開発したスパイクシューズであることに間違いないが、実際にドイツ連邦国防軍の50万人の兵士のために製造されたBW Sportが、ダスラー兄弟の弟アドルフの設立した「アディダス」のモノか、兄のルドルフによって設立された「プーマ」のモノであるのかは定かではない。(画像:ベルリンオリンピック出場時のジェシー・オーエンス)
しかも、元々のデザインベースとなるジェシー・オーエンスのためのランニングスパイクシューズは、職人気質の弟アドルフによって開発されていることからアディダス側がオリジナルを主張しており、一方商才に長けた兄ルドルフが設立したプーマ側は、ドイツ連邦軍軍事史博物館にプーマがGTAのクリエーターであったことを示す記録が残っていると主張。アディダス、プーマ双方一歩も譲らず、現在もこの論争は決着していない。
ジェーマントレーナーをファッションアイテムへと昇華させたマルジェラ
1970年代から1980年代までドイツ連邦国防軍に納品されたBW Sportは、1989年ベルリンの壁崩壊を機に軍が縮小したため、余剰在庫が払い下げ品として民間市場に大量流出。ベルギーのファッションデザイナー、マルタン・マルジェラは1990年代オーストリア滞在中にこのジャーマントレーナーと運命的な出会いを果たし、そのスタイリッシュなデザインに一目惚れした彼は即座に数十足を購入したと言われている。そしてそのジャーマントレーナーをマルジェラは自らアンチモード的アプローチとして全て手作業によるリメイクを施し、自身のコレクションで発表。さらにその数年後、メゾンのアイコニックピースとなるGTAをリプロダクトした「REPLICA」を発売し、ジャーマントレーナーは一気にファッショナブルなミリタリースニーカーとしてのステータスを獲得する。ちなみにマルジェラのREPLICAにはシュータンの両サイドにエラスティックバンドが装備され、シューレースなしでスリッポンとしても着用可能。これまでにオリジナルを忠実に再現したモデルやアーティザナルなテクニックを用いてリメイクを施したモノなど、初期のメゾン マルタン マルジェラから現在のメゾン マルジェラに至るまで、数多くのジャーマントレーナーを展開しているが、とりわけハンドペイントモデルや飛沫ペイントモデルの人気が高く、中でも90年代に発売されたフリーハンドによるグラフィティモデルはマニア垂涎のレアアイテムとなっている。
一方GTAのオリジネーターを主張するアディダスは、BW SportのDNAを受け継ぐ「Resplit Low」や「Samba」、「Gazelle」を、プーマは「Whirlwind」をリリース。2000年代以降、他のブランドもこぞってジャーマントレーナーを発売し、特にディオールオムのB01とエンダースキーマのマニュアルインダストリアルプロダクツ 05はモード的な解釈によりジャーマントレーナーのファッションアイテムとしてのステータスを高めたといえるだろう。
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