
ラドーを代表するアイコンウォッチ「アナトム」からシリーズ初のスケルトンモデルが登場した。ハイテクセラミックの先進性をデザインに昇華し、導き出されたスタイルはファッションとも高い親和性を備える。知的好奇心を刺激し時計の次世代を示唆するモデルの機能美を起点に、その背景にあるスクエアデザインと素材技術を遡って魅力を探っていく。
シリーズ名の伏線回収とも言える、“解剖時計”時代のクリエイティビティを刺激する「アナトム スケルトン」
ハイテクセラミック40周年を迎えた今年、ブランドを代表するシリーズで初めてスケルトン仕様を採用し、ラドーの現在を象徴する一本として発売された新作「アナトム スケルトン」。スケルトンウォッチというのは、文字盤の下に秘めたメカニズムを露にすることで、時刻だけでなく、その動作までをデザインとして楽しめる仕様で、凝った仕上げやエングレービングを施した工芸装飾的なクラシックスタイルに対し、近年では機械美をアピールしたインダストリアルなスタイルが人気を呼んでいる。モダンスケルトンと言える「アナトム スケルトン」は、直線基調と滑らかなカーブを融合した洗練のフォルムに精緻なムーブメントが映える。本作は「アナトム」という名前の伏線を回収するかのような、まさに“解剖仕様”。幾何学的なオープンワークからは機械式の鼓動が伝わってくるようだ。
ハイテクセラミックのベゼルはマットグレーのトーンで全体を統一し、初代オリジナルが特徴としたシリンドリカルなバーチカルストライプを思わせる上下のラインには、イエローゴールドのアクセントカラーをあしらう。さらに針や機械式ムーブメントの要であるテンワと4つの歯車を同色で統一することで、極めてロジカルなカラースキームを構築するのである。建築やプロダクトデザインを思わせる構築的でインテリジェンスを漂わせる機能美は、造形と構造の必然性を重んじる建築家やデザイナー、クリエイターたちの感性にも響くだろう。
オーセンティックなスクエアでありながら、エルゴノミックなフォルムやハイテクセラミックの先進性を併せ持ち、それは伝統的なテーラードに根差しつつ、コンテンポラリーに変容を遂げる現代のモードにも通じる。都会的なマットグレーはスーツやジャケットにも合い、スクエアケースは袖口のラインにも添い、ひけらかすことはない。ストラップは、ケースとの一体感あるデザインにあえて異素材のラバーを採用する。ラバーストラップが快適なフィット感を生み、浮遊感漂うスケルトン構造は腕元に視覚的な軽快さを添え、リラックスした週末カジュアルによく似合う。
ハイテクセラミックの恒久的な美しさに呼応し、デザインは洗練されたミニマリズムを極める。そうした「アナトム」の普遍の存在感にスケルトンは新境地を拓く。だが、その名の語源を“解剖学的”と解釈するならば、むしろ次世代に向けた原点回帰といえるだろう。では、そんな独創的なアナトムの造形はどのようにして生まれたのか。その源流を辿ると、ラドーが長年追求してきたスクエアデザインへと行き着く。
ラドーの歴史を表す“フォルム”ラドーの先進性と美学を象徴するスクエアデザイン
「アナトム スケルトン」の存在感を決定づける要素のひとつが、ラドーが長年磨き上げてきたスクエアフォルムだ。驚くべきことに「アナトム」のデザインは、1983年の誕生から細部に磨きはかけつつも基本はほとんど変わっていない。初代「アナトム」は、ハードメタルとサファイアクリスタルという当時のハイテク素材を組み合わせた。そしてスクエアケースのフォルムは、一体感のある流線型のブレスレットに連なり、まるで手首に纏うような心地良いフィット感が味わえる。優れた耐傷性を誇るタフネスとは対照的な感性性能をデザインに秘めているのだ。さらに「アナトム」という名は、人間構造学的を意味する“アナトミカル”に由来し、デザインもそのコンセプトの可視化にほかならない。だからこそ40年以上を経たいまもそこに揺らぎはない。
時代を超越した先進性という点ではスクエアのフォルムも見逃せない。スクエアウォッチでもマテリアルと同様、ラドーは独自の歩みを辿ってきた。本来、針の円運動で時刻を表示する時計において、それと対照的なスクエアケースは個性がより際立つ。それまでエレガントなドレスウォッチやジュエリーウォッチに多用されたのに対し、ラドーは1967年に「マンハッタン」という大胆な横長のスクエアモデルを発表。1978年にはスクエアケースの全面をサファイアクリスタルで覆い、オーバルの文字盤と組み合わせた「グリシエール」、さらに1981年の「ダイヤスター エクスクルーシブ」や1982年の「V2200」が登場した。そして「アナトム」以降も「インテグラル」「セラミカ」「シントラ」「r5.5」「トゥルー スクエア」など歴代数々のスクエアウォッチを手がけてきた。
いまやスマートウォッチに慣れた世代にとって、スクエアのフォルムは旧来の腕時計とは一線を画す「先進の象徴」といえるだろう。そして連綿と受け継がれてきたラドーのスクエアウォッチの伝統は、まさに丸くおさまらず、常に角が立った革新を続ける証だ。
そして、アナトムを語るうえでもうひとつ欠かせないのが、ラドーが“マスター・オブ・マテリアル”と称される所以でもある素材への飽くなき探究だ。
時計史を塗り替えた革命素材ラドーが操る「ハイテクセラミック」とは?
「アナトム」の革新性は、フォルムだけで成立しているわけではない。その造形と日常的な実用性を両立するためのもうひとつの柱が、ラドーを象徴するハイテクセラミックだ。現代の時計技術の進化は多岐にわたる。なかでもキーポイントとなるのがマテリアルだ。これまで時計では用いられなかったシリコンのような先端素材によって、ムーブメントの精度や持続時間、耐久性は格段に向上した。そして内部のパーツばかりでなく、外装における新素材の導入も著しく、特にハイテクセラミックはいまや時計の定番素材のひとつとして定着している。「アナトム スケルトン」を支えているのもこのハイテクセラミックだ。
ハイテクセラミックとは一般的にはファインセラミックスの名で知られ、人類が何千年も前から用いてきた磁器(セラミック)の技術を基にした人工素材として優れた特性を備える。驚くほどの軽量性に加え、硬さはビッカース硬度(硬さを表す尺度)でダイヤモンドやサファイアクリスタルに次ぎ、チタンやステンレススティールなどの金属類を大きく引き離す。摩耗や腐食にも強く、高い耐傷性も兼ね備えているため、美しい光沢を長く保持。そして熱伝導率が低いことから着けた瞬間も体温にすぐ馴染み、着け続けていても第2の肌のように自然であるばかりか、低アレルギー性も併せ持つ。これらの高い実用機能を考えると、まさに時計の外装としてうってつけの素材。1962年に時計初のハードメタルを採用し、“マスター・オブ・マテリアル”と呼ばれるラドーがその可能性に着目したのは当然と言えるだろう。
しかし、高機能な要素を多く備えているだけあって、そのぶん製作のハードルは高く、ラドーでは以下のようなプロセスを踏む。まずケースの図面を元に鋳型を製作し、これに高純度の酸化ジルコニウムやアルミナなどの人工鉱物パウダーを高圧で射出成形。ポリマーの溶解後、これを1450℃の超高温で焼結し、何時間もかけてセラミックが完全に硬化した結果、最終的なカラーと硬度が備わる。完成時には高温焼成によって当初から25%縮小するため、製作には温度設定やその管理など、蓄積したデータとノウハウが必要とされる。ハイテクでありながらも計算だけではない、技術の経験則があって初めて生まれる先端素材なのだ。
しかもラドーにとって、ハイテクセラミックは単に優れた性能を持つ素材にとどまらない。40年にわたり色、質感、造形の可能性を押し広げ、自らのデザイン表現へと進化させてきた素材なのである。
ラドーの歴史を表す“マテリアル”パイオニアとして40年にわたって磨き上げた独創の素材技術
ハイテクセラミックを時計に採用することと、その可能性を引き出し続けることは同義ではない。ラドーが“マスター・オブ・マテリアル”たる所以は、素材を採用した事実だけでなく、そこから40年にわたって価値を生み出し続けてきた歩みにある。1986年にラドーが時計で初めてハイテクセラミックを実用化してから、今年で40周年を迎えた。その歴史の長さだけでなく、たゆまぬ技術の追求こそがハイテクセラミックのパイオニアと呼ばれる所以だろう。素材は焼成収縮するため、時計に求められる厳密な寸法で製造するのは難しく、さらに色や質感、仕上げなど表現の多様性も限られていた。これに対し、着実に研究開発は進められ、新たな技術を生み出してきたのだ。
嚆矢となったのが「インテグラル」だ。ベゼルとブレスレットのセンターリンクなどにハイテクセラミックを用い、バングルのように連なったデザインはまさにインテグラル(一体化)だ。誕生40周年を記念した新作でもオリジナリティは再現され、その造形美が色褪せることはない。「インテグラル」が当時の素材技術やデザインに与えた影響は大きく、ハイテクセラミックを時計の素材として定着させたといっていいだろう。そしてラドーはそのアドバンテージを生かし、さらなる技術革新に邁進する。
INTEGRAL 40-YEAR ANNIVERSARY EDITION
90年代、本来ブラックを主流とするハイテクセラミックでいち早くホワイトカラーを発表した。1993年にはセラミックとメタルの両方の長所を持ち合わせた「サーメット」を初めて実用化し、メタリックな色と輝きを実現。さらに従来とは異なるアプローチから1998年に「プラズマ ハイテク セラミック」を開発した。これは、メタルを一切配合せず、白いジルコニアセラミック自体を数時間に渡って約2万℃でプラズマ処理し、メタリックなグレーに変化させる特許取得の独自技術だ。
2011年にそれまでの「サーメット」を時計素材として最適化した独自の「セラモス」を開発し、複雑な構造の製造やデザインの自由度をより高めた。エッジを生かし、メタルカラーもイエローゴールドやローズゴールドに展開している。こうした研鑽により、ハイテクセラミックの優れた素材特性はそのままにデザインやカラーも多様化し、好みのスタイルを選べるようになった。新たな素材技術への挑戦が時計のクリエイティビティをさらに広げたのだ。
40年にわたり素材の可能性を押し広げてきたからこそ、ハイテクセラミックはラドーにとって単なる高機能素材ではなく、デザインを形づくる表現手段となった。そうした素材研究と、ラドーが培ってきたスクエアデザインがひとつの腕時計に交差した現在地こそ、「アナトム スケルトン」と言える。シリーズ初となるスケルトンによって内部構造までデザインの一部とした一本は、これまで積み重ねてきた技術を継承しながら、ラドーの次なる可能性を腕元に描き出している。









































