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なぜ日本人男性は“小顔の女性”を美しいと思ってしまうのか?【江戸の美人画からスマホアプリまで。小顔信仰の文化史】

なぜ日本人男性は“小顔の女性”を美しいと思ってしまうのか?【江戸の美人画からスマホアプリまで。小顔信仰の文化史】

なぜ男は“小顔の女性”に惹かれるのか。「生物的本能?」「文化的な流行?」それとも「商売的な刷りこみ?」今回はその理由について考察する。

進化心理学が語る“惹かれる理由”の正体なぜ俺たちは“小顔の女性”を美しいと思ってしまうのか?

なぜ私たちは“小顔の女性”を美しいと思ってしまうのか。進化心理学的に見れば、顔が小さいほど体に対して頭が小さく、健康で成熟している大人であると脳が無意識に判断する。Nancy Etcoff『美はなぜ人を幸せにするのか』によれば、人は顔の比率を一瞬で“生殖可能性のサイン”として読み取るとされている。男は“視覚で選ぶ性”であり、均整の取れた比率に本能的反応を示す。だが、その生得的傾向は、時代ごとのメディアと文化、そして資本主義市場の力によって増幅され、演出されてきた。江戸の美人画からスマホアプリまで、“頭身バランス”の理想が揺れ動いてきた150年を辿ることで、我々の審美眼に潜む本質が見えてくる。

参考文献:
Nancy Etcoff『なぜ美人ばかりが得をするのか(Survival of the Prettiest)』ハヤカワ文庫、2000年
David M. Buss『進化心理学―人間の行動と心の起源』新曜社、1999年

メディアが男の“見たい顔”を変えた江戸時代までは“舞台映え”、そして明治時代からは“スクリーン映え”へ

江戸時代の美人は、舞台の上で遠目から見て映えることが美とされた。浮世絵の美人画もまた、その“舞台映え”する造形を理想として描かれていた。遠くの客席にも感情が伝わるように、輪郭は大きく、表情は誇張される。当時の美人画の顔がふっくらと描かれるのは、情報伝達としての顔だったからだ(辻惟雄『奇想の系譜』によれば、浮世絵の美は“遠見の明瞭さ”が命とされた)。明治以降、写真と映画が登場すると状況は一変する。観客はスクリーンの“寄り”で顔を見るようになり、表情の細部を読み取るようになった。舞台で優位だった大顔の役者は、映像の中で“間延び”して見えるようになった。メディアの距離が変わることで、美の比率も反転したのである。マーシャル・マクルーハンが『メディア論』で述べたように、「メディアは感覚の延長である」。視覚の拡張が、審美眼そのものを変質させたのである。

提供:JAPACK/アフロ

参考文献:
辻惟雄『奇想の系譜』ぺりかん社、1970年
Marshall McLuhan Understanding Media: The Extensions of Man McGraw-Hill, 1964

 

日本人男性が“整った美”を求めるようになった理由明治維新後、西洋の美術がもたらした“八頭身”という呪文

明治維新によって、西洋の美術教育が日本に導入された。そこに刻まれていたのは「黄金比」や「八頭身」という数値的理想。人間の体は全体の1/8を頭部とする構造が“整っている”とされ、この比率を満たすほど“美しい”と教えられた(ヴィトルヴィウス的比例論)。やがて、この“数値としての美”は教育やメディアを通じて社会に浸透し、「頭が小さい=体のプロポーションが整って見える」という公式が常識化していった。かつて感覚で捉えられていた“あいまいな美”は、図面のような比率へと変換され、“数値的に設計可能な美”へとシフトしたのである。岡倉天心は『日本美術史綱』で「美術とは制度である」と喝破した。一定の頭身バランスは、西洋美術による制度的美という側面を持つ。

写真:Abaca/アフロ A replica of the Venus de Milo, the famous armless Greek goddess statue, was endowed with two prosthetic limbs made by 3D printers for a campaign by Handicap International carried out in Paris, France, on Tuesday March 6, 2018, as part of the organisations #bodycantwait campaign. Photo by Alain Apaydin/ABACAPRESS.COM

参考文献:
岡倉天心『日本美術史綱』岩波書店、1904年
Leonardo da Vinci Vitruvian Man c.1490

日本人の憧れが“国際基準”にすり替えられた戦後は“欧米的=洗練”という幻想も。

1953年、ミス・ユニバース世界大会で伊東絹子が3位に入賞。「八頭身美人」という言葉が流行語となり、日本女性の美は“国際基準”で測られるようになった。小顔はその象徴だった。欧米的な顔立ちや骨格は「世界に通じる美」として報じられ、それを模倣することが“モダン”の証とされた。つまり、小顔とは“洗練”ではなく“同化”の記号である。文化人類学者エドワード・サイードが指摘したように、西洋が基準となる社会では、東洋は常に「追う側」として位置づけられてきた(Edward W. Said『Orientalism』より)。戦後の日本における広告や映画、雑誌は“欧米的な身体”を理想として輸入し、それを国内向けに翻訳したという捉え方もできる。丸顔や短い脚といった「日本的特徴」は隠され、シャープな輪郭や長い脚を備えた体型こそが “世界に通じる理想” とされた。小顔信仰は、この「翻訳された美」の延長線上に生まれた。

写真:AP/アフロSix candidates for the Miss Universe title grab a quick United States style lunch between rehearsals for the contest at Long Beach, Calif., on July 14, 1953. For some it was their first taste of the famed hot dog. Left to right: Miss Puerto Rico, Wanda Irizarry; Miss Mexico, Ana Bertha Lepe; Miss Uruguay, Alicia Ibanez; Miss Arizona, Eleanor Ruth Gross; Miss Panama, Emita Arosemena; and Miss Canada, Thelma Brewis. (AP Photo)

参考文献:
Edward W. Said Orientalism Pantheon Books, 1978
David M. Buss Evolutionary Psychology: The New Science of the Mind Allyn & Bacon, 1999

小顔は男の本能的欲求と、資本主義が設計した“売れる美”90年代の日本で巻き起こった小顔ブーム

1990年代、安室奈美恵の登場が“小顔=可愛い”を国民的価値に変えた。誌面では、ボリュームのあるヘアスタイルやハイウエストのボトムスなど、頭部を小さく錯覚させるスタイリングが推奨され、美容家電は“小顔ローラー”を次々と発売。もはや小顔は“憧れ”ではなく“買える美”だった。社会学者Pierre Bourdieuは『ディスタンクシオン』で「趣味とは階級の符号である」と述べている。つまり“小顔”という嗜好も、社会的階層を可視化する記号として機能した。清潔で、都会的で、洗練されたイメージ。小顔は社会的上昇欲の象徴へと昇華したのである。

だが“小顔”がここまで“売れる顔”となったのは、市場原理だけではない。顔の余白が少ないほど、目や口といった感情の出入口が相対的に強調され、表情が読み取りやすくなる。小顔は、感情の可読性を高めるデザインでもあった。見る者に「理解できる」と感じさせる顔。それが男の審美心理を刺激する。男は“理解できる美”に惹かれる。感情が読み取りやすく、反応を想像しやすい女性ほど、安心感と支配感の両方をもたらすからだ。つまり90年代の“小顔ブーム”は、単なる比率の問題ではなく、“共感可能な他者”としての女性像を社会が再生産した現象でもあった。小顔は、男の「わかる女性が好きだ」という本能的欲求と、資本主義が設計した“売れる美”の接点に立っていたのである。

参考文献:
Pierre Bourdieu Distinction: A Social Critique of the Judgement of Taste Harvard University Press, 1984
Jean Baudrillard La société de consommation Gallimard, 1970
Cunningham, M.R., et al. “Their ideas of beauty are, on the whole, the same as ours.” Journal of Personality and Social Psychology, 1995

“小顔フィルター”が繰り返し刷り込む“理想の女性”21世紀に突入し、アプリが美意識を自動補正する時代へ

小顔信仰は、21世紀に入って終焉したどころか、テクノロジーによって増幅された。スマートフォンのカメラやSNSの映像文化は、人物の頭身を良く見せることを前提に設計されている。アプリのレンズ補正やフィルターは、顔を中心に据えた構図でも全体のバランスが整うよう自動的に調整を行う。さらに、撮影者自身も縦長構図やローアングルなど、脚を長く見せるフレーミングを意識的に選ぶ。こうした演算と習慣の積み重ねが、現代の“理想的な頭身”を形づくっている。

アイドルやモデルといった“憧れの対象”が、撮影技術や整形、スタイリングによって小顔化され、理想像として映し出されてきた結果として、男性が“小顔の女性”に惹かれる。照明やレンズが生む“頭身の整った女性”を繰り返し目にすることで、私たちは無意識のうちに「小顔=洗練」「小顔=選ばれる外見」と刷り込まれていく。SNSは、いまや理想そのものを定義する役割を担っていると言っても過言ではない。

参考文献:
キム・ヨンジュ『整形する社会』青土社、2016年
Shoshana Zuboff The Age of Surveillance Capitalism PublicAffairs, 2019

以上のように、小顔を美しいと感じる感覚は自然であると同時に、時代が作った幻想とも言えるだろう。そうした仕掛けを知ったうえでなお、人をまっすぐに見つめられる男は魅力的だ。顔の大きさではなく、その人が纏う空気や生き方、心の輪郭を見抜く眼を持ちたい。内にある強さや優しさを感じ取る力。それこそが“良い男”の美意識である。惹かれる理由を知りながら、それを超えて人を愛せる男でありたい。

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