
我々が普段当たり前のように着用しているジャケットやシャツ。男性服と女性服では、ボタン合わせの向きが左右で逆になっていることに疑問を抱いたことはないだろうか。何気なく留めているボタンの向きにも、数百年前の生活様式や服飾文化が反映されているという説がある。今回はもっとも広く知られる有力説を中心に、ボタン合わせが男女で逆になった理由を紐解いていく。
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有力説は中世ヨーロッパが起源男性は自分で服を着る、女性は使用人が着付けを手伝うために逆になったという説
もっとも広く知られているのは、男性服は着用者本人が留めやすい向きに、女性服は使用人が向かい合って留めやすい向きに作られたという説だ。そもそもボタンは、最初から衣服を留めるための道具だったわけではない。古くは装飾や身分を示す意匠として使われていたが、13世紀から14世紀頃のヨーロッパでボタンホールと組み合わせる仕組みが広まり、衣服を実際に留めるパーツとして定着していったと考えられている。細かなボタンをいくつも並べた衣服は、縫製にも着付けにも手間がかかる。つまりボタン付きの服は実用品であると同時に、上流階級の豊かさや格式を示すディテールでもあった。
そして、この時代、男性は自分で服を着る場面が多かったとされる。右利きの人が多数派であることを考えると、着用者から見て右側にボタンがあると、右手でボタンをつまんで留めやすい。左手で前立てを支え、右手でボタンを動かすといった動作に合わせ、男性服の前合わせは右側にボタンが付く仕様へ定着したといわれている。
上流階級の女性服は構造が複雑で、着付けを使用人が手伝うことも珍しくなかった。向かい合った相手が右手でボタンを留めるなら、着用者から見て左側にボタンがあった方が扱いやすい。女性服のボタンが男性服と逆になった背景には、こうした“着る人”ではなく“着せる人”を基準にした服作りがあったとされている。
もちろん、この説が唯一の正解として証明されているわけではない。とはいえ、右利きの動作、上流階級の着付け文化、ボタンが高価な装飾であった時代背景を重ねると、男女でボタン合わせが逆になった理由としてかなり筋の通った説と言える。ここからはその他の説を紹介!
その他の諸説1 軍服起源説男性服のボタン位置は左腰に下げた剣を抜きやすくするためだった?
男性服のボタン合わせについては、軍服や剣の扱いに由来するという説もある。かつて剣を帯びる男性の多くは、左腰に剣を下げ、右手で引き抜いた。前合わせが動作の邪魔にならないよう、男性服は着用者から見て右側にボタンが付く仕様になったという考え方だ。ただし、この説だけでは女性服のボタンが逆になった理由までは説明しきれないため、男性服側の仕様を補強する説として捉えるのが妥当だろう。
その他の諸説2 授乳起源説女性服のボタン位置は授乳の際に左腕で乳児を支えて右手で服を開けやすくするためだった?
女性服のボタン位置には、授乳のしやすさが関係していたという説もある。着用者から見て左側にボタンがついていると、乳児を左腕で抱え、右手で服を開ける動作がしやすくなるという考え方だ。ただし、授乳と直接関係しないジャケットやコートにも同じ仕様が見られるため、女性服全般の起源としては補助的な説にとどめるのが妥当だろう。
その他の諸説3 乗馬起源説女性服のボタン位置は横乗りで乗馬する際に風の侵入を防ぐためだった?
女性服のボタン位置には、乗馬の習慣が関係していたという説もある。かつて上流階級の女性はスカートを着用していたので、馬にまたがらず、両脚を片側にそろえて体を左側へ向ける横乗りで乗馬することが多かった。この姿勢で男性服と同じく着用者から見て右側にボタンが付いていると、進行方向から受ける風が前合わせのすき間に入り込みやすい。そこで女性服ではボタン合わせを逆にし、風の侵入を抑えたという説明である。ただし、シャツやブラウスまで含めた女性服全体の起源としては断定しにくく、当時の生活様式から生まれた説のひとつとして捉えるのが自然だ。






















